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Li, X. F.*; Chen, Z. Q.*; Liu, C.*; Zhang, H.; 河裾 厚男
Journal of Applied Physics, 117(8), p.085706_1 - 085706_6, 2015/02
被引用回数:23 パーセンタイル:67.91(Physics, Applied)280keV炭素イオン注入によりGaN中に導入される損傷を低速陽電子ビームを用いて研究した。陽電子消滅線エネルギースペクトルのドップラー拡がりから、原子空孔クラスターが導入されていることが分かった。800Cのアニールにより、それらはマイクロボイドに成長し、1000Cのアニールでも残留することが明らかになった。透過電子顕微鏡観察の結果、損傷層は非晶質化していることが分かった。GaN中におけるイオン注入によるマイクロボイドの形成と非晶質化は、炭素イオンに特有の現象と考えられる。
前川 雅樹; 河裾 厚男; 吉川 正人; 宮下 敦巳; 鈴木 良一*; 大平 俊行*
Physica B; Condensed Matter, 376-377, p.354 - 357, 2006/04
被引用回数:2 パーセンタイル:12.56(Physics, Condensed Matter)ドライ酸化SiO/4H-SiC界面には多くの欠陥が含まれていると言われているが、陽電子消滅法を用いて欠陥の構造評価を行った。ドップラー幅測定からは、SiO/4H-SiC界面にはSiOやSiCとは明白に区別される欠陥を多く含んだ界面層が存在することが明らかとなった。界面層での陽電子消滅寿命測定からは、構造がアモルファスSiOに類似した比較的空隙を持つ構造であることがわかった。界面層での電子運動量分布測定と第一原理計算による陽電子消滅特性のシミュレーションとの比較より、陽電子は空隙に存在する酸素価電子と対消滅していることが示唆された。酸化後の加熱焼鈍による酸素価電子との消滅確率の減少は、界面準位密度の減少と同じ温度領域で起こることから、界面準位の起源となる欠陥構造は陽電子を捕獲する欠陥構造と強く関連していることが示唆された。
Chen, Z. Q.; 前川 雅樹; 河裾 厚男; 境 誠司; 楢本 洋*
JAEA-Review 2005-001, TIARA Annual Report 2004, p.232 - 234, 2006/01
水熱合成した酸化亜鉛に対して、ドナー不純物(B,Al),アクセプター不純物(N,P,Li),自己元素(O),水素(H),ヘリウム(He)を注入した場合の、その後の熱処理に伴う欠陥構造の形成過程と消失過程を陽電子ビームに基づく陽電子消滅法と理論計算によって詳しく調べるとともに、電気特性発現との関係を研究した。その結果、特にAlイオン注入では、直径1nm程度のマイクロボイドが形成するが、1000C以下の熱処理でそれらは完全に消失し、注入されたAlがほぼ100%電気的に活性な状態になること、及び結晶性が注入以前よりも向上することが明らかになった。Nイオン注入では、高温の熱処理後も欠陥が残留するうえ、熱的に形成されたZn欠損がN不純物によって固定され、このためN不純物はアクセプターとして活性化されない。また、理論的に期待されているNとAlの共注入でも、改善は見られない。Oイオン注入では、欠陥は速やかに回復し、その後注入層が半絶縁化することが明らかになった。Hイオン注入では、バブル形成と昇温脱離に伴い、マイクロボイドが形成することが明らかになった。
前川 雅樹; 河裾 厚男; 吉川 正人; 宮下 敦巳; 鈴木 良一*; 大平 俊行*
Physical Review B, 73(1), p.014111_1 - 014111_9, 2006/01
被引用回数:20 パーセンタイル:64.39(Materials Science, Multidisciplinary)ドライ酸化法によって形成されるSiO/4H-SiC界面構造を低速陽電子ビームを用いて評価した。ドップラー幅測定より、SiO/4H-SiC界面にはSiOやSiCとは明白に区別される界面層が存在することが明らかとなった。界面層での陽電子消滅寿命測定からは451ps単一の寿命成分が得られた。これは界面構造がアモルファスSiOに類似した比較的空隙を持つ構造であることを示している。界面層での電子運動量分布測定からは、陽電子は空隙に存在する酸素価電子と対消滅していることが示唆された。第一原理計算による陽電子消滅特性のシミュレーションを行ったところ、SiO中に導入した酸素価電子を持つ欠陥構造での陽電子消滅特性は実験結果をよく反映するものであった。酸化後の加熱焼鈍によって観測される酸素価電子との消滅確率の減少挙動は、電気測定から求められる界面準位密度のそれと非常に類似したものとなった。これは、界面準位が陽電子を捕獲する欠陥構造と強く関連していることを示している。
Chen, Z. Q.; 前川 雅樹; 河裾 厚男; 鈴木 良一*; 大平 俊行*
Applied Physics Letters, 87(9), p.091910_1 - 091910_3, 2005/08
被引用回数:31 パーセンタイル:71.34(Physics, Applied)N, Oイオンを酸化亜鉛結晶に注入、あるいは共注入した。これにより空孔集合体が導入されることが陽電子消滅法により示された。800Cでアニールを行うと、Nイオン注入によって発生した空孔集合体はその一部が消失するに留まるのに対し、酸素イオン注入の場合には全量が消失する。これは、窒素と空孔集合体の間には強い相互作用があることを示している。空孔欠陥を検出限界以下とするためには1250Cでの高温アニールが必要である。さらに、窒素はアクセプタとして作用すると思われたが、実際にはn型の伝導型を示すことがホール測定により示された。一方、O/Nイオンの共注入ではほとんどの空孔集合体が800Cで消失する。これは窒素-酸素複合体の形成のために酸素が窒素を捕獲し、空孔集合体の消失が促進されるためであると考えられる。これはO/Nイオン共注入により、非常によく補償された半絶縁層を形成できることを示している。
前川 雅樹; 河裾 厚男; Chen, Z. Q.; 吉川 正人; 鈴木 良一*; 大平 俊行*
Applied Surface Science, 244(1-4), p.322 - 325, 2005/05
被引用回数:13 パーセンタイル:49.91(Chemistry, Physical)熱酸化過程においてSiO/SiC界面に残留する構造欠陥を評価するため、低速陽電子ビームを用いSiO/SiC構造における界面欠陥の検出とその評価を試みた。陽電子消滅寿命測定より、界面の構造はSiCよりも空隙が多くSiOに近い構造であると考えられる。ドップラー幅拡がり測定からは、界面領域においてWパラメータの増大が見られ、これは酸素価電子との消滅に由来することが示唆された。また酸化後にアルゴン雰囲気中でアニール処理を行うと、界面領域におけるWパラメータの減少が見られた。これは酸素価電子の影響が減少したことによると思われる。以上より、SiO/SiC界面には酸素ダングリングボンドを含む不完全酸化物が堆積しており、アニール処理を行うとこれが消失し界面構造の向上が図られるものと考えられる。
Chen, Z. Q.; 河裾 厚男; Xu, Y.; 楢本 洋*; Yuan, X. L.*; 関口 隆史*; 鈴木 良一*; 大平 俊行*
Physical Review B, 71(11), p.115213_1 - 115213_8, 2005/03
被引用回数:106 パーセンタイル:93.69(Materials Science, Multidisciplinary)20-80keVに加速させた水素イオンを、総量4.410cmまでZnO結晶に注入した。陽電子消滅測定により、水素原子で満たされた亜鉛空孔が形成されることがわかった。200-500Cのアニール後、この空孔は水素バブルへと発展する。600-700Cのさらなるアニールにより、バブルから水素が脱離し、多量のマイクロボイドが残る。これらのマイクロボイドは、1000Cの高温で消失する。カソードルミネッセンス測定から、水素イオンは、サンプルから脱離する前に、深いレベルの発光中心も不活性化し、紫外光の放出を促すことがわかった。
Chen, Z. Q.; 河裾 厚男; Xu, Y.; 楢本 洋; Yuan, X. L.*; 関口 隆史*; 鈴木 良一*; 大平 俊行*
Journal of Applied Physics, 97(1), p.013528_1 - 013528_6, 2005/01
被引用回数:147 パーセンタイル:96.37(Physics, Applied)リンイオンを、50-380keVのエネルギーで、10-10cmの線量でZnO結晶に注入した。注入後、空孔クラスターが形成することが、陽電子消滅測定により示された。600Cのアニール後、これらの空孔クラスターはマイクロボイドに発展し、1100Cで消失する。ラマン分光測定により、酸素空孔(V)の生成が示された。これらは、700Cまでに空孔クラスター集合の形成を伴って、アニールされる。ZnOの発光は、注入により導入した非発光中心により抑えられる。光放出の回復は、600Cより上で起こる。陽電子により検出した空孔型欠陥は、非発光中心の一部であると思われる。またホール測定は、リン注入したZnO層において、n型伝導性を示す。これはリンが両性不純物であることを示唆している。
前川 雅樹; 河裾 厚男; 加島 文彦*; Chen, Z. Q.
JAERI-Review 2004-025, TIARA Annual Report 2003, p.299 - 301, 2004/11
現行の密封線源による陽電子ビーム形成では得られる輝度に限界があり、物質表面で起こる過渡現象や微小試料の研究を行ううえで大きな制約となっている。この制限を打破すべく、イオンビームを用いた高強度陽電子線源の作製を試みた。TIARAのAVFサイクロトロンを用いて発生した20MeVのプロトンビームを高純度アルミニウムに照射し、Al(p,n)Si反応により生成したSiが崩壊する際の陽電子を減速し低速陽電子ビームとして形成する。陽電子の発生を確認するためソレノイド磁場を用いた陽電子輸送系において陽電子ビーム像を観測したところ、およそ3mm程度のビーム径が得られた。これはモデレーターの有効径とほぼ一致し、変形もみられないことから、発生したビームは比較的単色性の高いものであり、密封線源による陽電子ビームと同様の良好な性質を備えていることがわかった。また陽電子ビーム強度を計測したところ、イオンビーム1Aあたりの発生陽電子個数は510個/secとなることがわかった。これらより、高輝度陽電子ビームの実現に向け重要な基礎データを得ることができた。
Chen, Z. Q.; 前川 雅樹; 河裾 厚男; 山本 春也; Yuan, X. L.*; 関口 隆史*; 鈴木 良一*; 大平 俊行*
JAERI-Review 2004-025, TIARA Annual Report 2003, p.193 - 195, 2004/11
20-80keVの水素イオンを、4.410cmの線量までZnOの単結晶中に注入した。低速陽電子ビームを用いた消滅測定により、注入後、水素不純物で満たされた空孔が導入されることを明らかにした。アニール後、空孔を満たしたこれらの水素は大きい水素バブルに発展する。500-700Cのアニール温度で、これらの水素不純物はバブルから放出され、空のマイクロボイドが残る。これらのマイクロボイドは、1100Cで最終的に消失する。ZnOにおける水素注入の光ルミネッセンスへの効果も議論する予定である。
河裾 厚男; 石本 貴幸*; 前川 雅樹; 深谷 有喜; 林 和彦; 一宮 彪彦
Review of Scientific Instruments, 75(11), p.4585 - 4588, 2004/11
被引用回数:33 パーセンタイル:80.23(Instruments & Instrumentation)陽電子回折実験のための10keV陽電子ビームを同軸対称な電磁石を用いて開発した。ビーム輝度は、10 e/sec/cm/rad/Vとなり、陽電子再放出に基づく輝度増強技術で得られるものに匹敵する性能である。ビーム進行方向と垂直方向の可干渉距離は、それぞれ100と40であった。これらは、大きな単位胞を持つ表面超構造の観察にも十分な値である。実際、Si(111)-77表面からの超構造反射を従来よりも鮮明に観察できることが確認された。
前川 雅樹; 河裾 厚男; 吉川 正人; 一宮 彪彦
Materials Science Forum, 445-446, p.144 - 146, 2004/05
SiO/SiC界面に存在している界面準位の評価は、高性能なSiCデバイス製作のための重要な問題である。われわれは陽電子消滅法によって熱酸化法によって作製された4H-SiC MOS構造のSiO/SiC層を評価した。これまでわれわれは、ゲート電圧に対する消滅線のドップラー拡がり(Sパラメータ)の変化を測定してきたが、Sパラメータの変化はMOSの各層で消滅した成分を含んでおり、単純に界面準位の量を反映するものではないと思われる。そこでMOSに紫外線を照射し、界面のみに変化を誘起させることで界面準位の陽電子への影響を選択的に捕らえることを試みた。紫外線照射によりSパラメータが減少した。これは紫外線照射により生成したホールがSiO/SiC界面に蓄積し陽電子の移動が妨げられ、欠陥への捕獲効率が変化したためと考えられる。紫外線消光後もSパラメータは減少したままであったが、バイアス回路の開放による急速な電荷の移動を促したところSパラメータは回復した。これにより、SiO/SiC界面には蓄積したホールを一時的に保持できる多量の準位が存在することが示唆された。
Chen, Z. Q.; 関口 隆史*; Yuan, X. L.*; 前川 雅樹; 河裾 厚男
Journal of Physics; Condensed Matter, 16(2), p.S293 - S299, 2004/01
被引用回数:25 パーセンタイル:71.5(Physics, Condensed Matter)高純度酸化亜鉛に対して、50keVから380keVの窒素イオンを10/cmから10/cm注入した。陽電子消滅測定から、注入層の損傷が検出された。原子空孔型欠陥の濃度は、注入量とともに増加することが見いだされた。損傷の焼鈍過程は二つの段階からなることがわかった。前者は、原子空孔集合体の形成とその消失、後者は、原子空孔と窒素イオンの複合体形成と消失である。全ての検出可能な損傷は1200Cまでの焼鈍によって消失することがわかった。発光測定から、注入によって生じた損傷が非発光中心として作用し、紫外発光強度を抑制することが明らかになった。陽電子測定で見られた損傷の消失と紫外発光の回復はよく一致していることが明らかになった。窒素イオンはp型不純物の候補と考えられているが、ホール効果測定の結果、焼鈍後の試料の伝導型はn型であった。
Chen, Z. Q.; 前川 雅樹; 山本 春也; 河裾 厚男; Yuan, X. L.*; 関口 隆史*; 鈴木 良一*; 大平 俊行*
Physical Review B, 69(3), p.035210_1 - 035210_10, 2004/01
被引用回数:91 パーセンタイル:93.47(Materials Science, Multidisciplinary)低速陽電子ビームによりアルミニウムイオン注入後の酸化亜鉛欠陥の生成とそのアニール過程を調べた。アルミニウムイオン注入後には、原子空孔型欠陥が生成していることが見いだされた。注入量を10Al/cmまで増加させることで注入層が非晶質化することが見いだされた。600Cまでの熱処理によってポジトロニウムの形成が見られ、これよりボイドが生成していることが確認された。600C以上のアニールによって再結晶化に伴いボイドが消失することがわかった。また、注入されたアルミニウムイオンがほぼ完全に電気的に活性になりn型伝導に寄与し、結晶性が注入前に比べて改善されることが見いだされた。
Chen, Z. Q.; 前川 雅樹; 関口 隆史*; 鈴木 良一*; 河裾 厚男
Materials Science Forum, 445-446, p.57 - 59, 2004/00
アルミニウムイオン注入によって酸化亜鉛中に生成する損傷の熱的振る舞いをエネルギー可変低速陽電子ビームを用いて調べた。イオン注入量が10Al/cm以上に増加すると、注入層が非晶質化することが見いだされた。また、その後の600Cまでの熱処理によってポジトロニウム(陽電子と電子の安定結合状態)が生成することから、注入層にはサイズの大きなボイドが形成することが判明した。そのボイドは、600C以上の熱処理で注入層の再結晶化に伴って消失することが見いだされた。その後、注入されたアルミニウムイオンはほぼ完全に電気的に活性化されn型伝導に寄与することがわかった。電子移動度も注入以前に比べて向上することが知られた。さらに、カソードルミネッセンス測定からは、紫外発狂強度が著しく増加することがわかった。以上の知見から、酸化亜鉛の電気的・光学的特性は、アルミニウムイオン注入とその後の熱処理によって改善されることが言える。
河裾 厚男; Weidener, M.*; Redmann, F.*; Frank, T.*; Sperr, P.*; Kgel, G.*; 吉川 正人; 伊藤 久義; Krause-Rehberg, R.*; Triftshuser, W.*; et al.
Silicon Carbide, p.563 - 584, 2004/00
本報告では、耐放射線性半導体として有望視されている炭化ケイ素(SiC)中の原子空孔型欠陥を陽電子消滅法によって研究した結果について詳述する。立方晶SiCでは主として孤立したシリコン原子空孔が陽電子捕獲サイトとして作用することが見いだされた。六方晶SiC中ではシリコン空孔以外にも炭素空孔が検出される。炭素空孔は比較的低温の熱処理で移動消滅するが、シリコン空孔は1500C程度まで安定に存在することが見いだされた。六方晶SiC中のシリコン空孔のアニール温度は、立方晶SiC中のそれに比べて高いことがわかった。立方晶SiCを用いて、シリコン原子のはじき出しエネルギーが決定され、炭素原子のそれよりも大きな値となることが明らかになった。陽電子消滅で検出される原子空孔型欠陥と深準位過渡応答測定から知られる電子準位との相関を調べ、負電子相関を持つ電子準位がシリコン原子空孔を伴う、複合欠陥であることを突き止めた。
石本 貴幸*; 河裾 厚男; 伊藤 久義; 岡田 漱平
JAERI-Tech 2003-091, 32 Pages, 2003/12
反射高速陽電子回折(RHEPD)の表面研究のために装置開発を行い、1998年には、世界で初めてとなる明瞭な陽電子回折図形の観測に至った。初期に開発された装置は、三段のアインツェルレンズとコリメータによって平行陽電子ビームを得る仕組みになっていた。しかしこの装置では、ビームエネルギー分散と線によるバックグラウンドが鮮明な回折図形観察の妨げとなることがわかってきた。すなわちより精度の高い実験を行うためには、ビームエネルギー分散と線のバックグラウンドを低減し、かつ観測システムのダイナミックレンジを高める必要がある。そこで、初期の装置に対して同心円球状の静電偏向器と二段のアインツェルレンズを新たに加える改造を施した。その結果、線が起源のノイズを大幅に低減することができ、ビーム径1mm,エネルギー分散0.1%以下、及び角度分散0.1%以下の高品質陽電子ビームを得ることができた。また新たに画像観測システムを構築した。その本装置を用いて、従来の研究では観測不可能であったSi(111) 表面に付随する微弱な一次ラウエ帯の観測に成功した。
前川 雅樹; 河裾 厚男; 石本 貴幸*; Chen, Z. Q.
JAERI-Review 2003-033, TIARA Annual Report 2002, p.297 - 299, 2003/11
陽電子ビームを用いた物性研究は、空孔型格子欠陥の非破壊高感度検出や物質最表面の構造解析が可能であるなど、強力な物性評価手法の一つとして広く用いられているが、現行の密封線源によるビーム形成では得られる輝度に限界があり、物質表面で起こる過渡現象や微小試料の研究を行う上で大きな制約となっている。この制限を打破すべく、イオンビームを用いた高強度陽電子線源の作製を試みた。TIARAのAVFサイクロトロンを用いて発生した20MeVのプロトンビームを高純度アルミニウムに照射し、Al(p,n)Si反応により生成したSiが崩壊する際の陽電子を減速し低速陽電子ビームとして形成する。陽電子の発生を確認するために構築したソレノイド磁場を用いた陽電子輸送系において陽電子ビーム強度を計測したところ、発生陽電子個数は入射イオンビームカレントと非常に良い直線性を示し、イオンビーム1A当りの発生陽電子個数は10個/secとなった。この強度は、バックグラウンドの混入等も考えられるがサイクロトロンを用いた陽電子ビーム発生と高輝度陽電子ビーム形成に向けて期待できる結果となった。
Chen, Z. Q.; 前川 雅樹; 山本 春也; 関口 隆史*; 河裾 厚男
JAERI-Review 2003-033, TIARA Annual Report 2002, p.209 - 211, 2003/11
無添加酸化亜鉛(ZnO)に対して、アルミ及び窒素イオンの個別イオン注入とアルミ窒素の共注入を行い、表層に生成する注入欠陥の回復過程を低エネルギー陽電子ビームによって調べた。アルミイオン注入後の空孔型欠陥は、二段階のアニールで消失することが見いだされた。第一段階では寸法の大きな原子空孔集合体が形成されるが、第二段階でそれらは完全に除去される。このことから注入層は非晶質化していると考えられる。一方、窒素イオン注入と共注入した場合では、アルミイオン注入では見られない高温の回復段階が見いだされた。これは、窒素と原子空孔の相互作用によるものと考えられる。ホール測定の結果、注入されたアルミイオンは、ほぼ全量が電気的に活性な状態にあることがわかったが、窒素イオン注入または共注入の場合には電気的活性化が抑制されることが明らかになった。
河裾 厚男; 吉川 正人; 前川 雅樹; 伊藤 久義; 千葉 利信*; Redmann, F.*; Rehberg, R. K.*; Weidner, M.*; Frank, T.*; Pensl, G.*
Materials Science Forum, 433-436, p.477 - 480, 2003/08
これまでの研究では、放射線照射によってSiC中に生成する原子空孔の熱アニールに対する挙動が、多形とともにどのように変化するかは、不明であった。そこで、電子線照射及びヘリウムイオン照射した4H,6H及び3C SiCの原子空孔型欠陥を陽電子消滅で捉え、アニール挙動を調べた。また、消滅線の二次元角相関を測定し、六方晶と立方晶SiC中の主要な原子空孔の幾何学的知見を得た。その結果、電子線照射,ヘリウムイオン照射のいずれであっても3C SiC中の原子空孔は、1000以下のアニールで消失するが、4H,6H SiC中のそれは、1500まで残留することが明らかになった。即ち、3C SiC中の放射線照射損は、4H,6H SiCのそれに比べ、低温のアニールで除去できる。原子空孔の残留量は、3C6H4Hの順に増加することがわかり、Hexagonalityが原子空孔を安定化させる要因となることが示唆された。また、3C-SiC中の原子空孔は、単純な四面体対称をもつのに対し、六方晶中のそれは、C軸配向性をもつことが明らかになり、上の推察を裏付けた。